暗号資産(仮想通貨)取引所「BitMEX(ビットメックス)」の共同創設者であるアーサー・ヘイズ氏は2日、エッセイを公開し、フランスの財政悪化が欧州中央銀行(ECB)による数兆ユーロ規模の金融緩和を余儀なくさせ、それがビットコインの強気相場を後押しすると分析した。
フランスのTARGET赤字急拡大が危機の引き金に
ヘイズ氏は、フランスが財政的に「詰んでいる(fucked)」と結論付ける根拠として、欧州の銀行間決済システムである「TARGET」のバランスシートを提示した。

TARGETバランスは、プラスであればその国への資金流入(信認)を、マイナスであれば資金流出(不信)を示す。ドイツが一貫して大幅なプラスを維持する一方、フランス(画像白線)はユーロ圏で最大のマイナス残高を記録し、その赤字は急速に拡大している。
ヘイズ氏はこれを「フランスの預金者が、自国の銀行システム内にユーロを置いておくのは安全ではないと考えている」証拠だと指摘。賢明な国内資本が、ドイツなどのより安全な国へ資産を移動させている「静かな銀行取り付け(a bank walk)」が起きていると分析した。
米国の政策転換が引き金、独日の資本が還流
ヘイズ氏によると、このフランスの危機を誘発している根本的な原因は、米国の外交・金融政策の転換にあるという。
第二次世界大戦後、米国はドイツと日本を共産主義への防波堤とするため、両国が輸出主導で経済成長できる環境を許容してきた。その結果、ドイツと日本は世界最大級の純債権国となり、その豊富な資本がフランスのような純債務国の国債や銀行債務をファイナンスしてきた。
しかし、財政的に疲弊した米国が「アメリカ・ファースト」へと舵を切り、自国の産業基盤再建のために国内への資本回帰を促している現在、ドイツと日本も追随せざるを得なくなっている。これにより、フランスの財政を支えてきた最大の買い手がいなくなりつつある、とヘイズ氏は論じている。
ECBのジレンマと避けられない大規模金融緩和
フランス国内では、マクロン大統領の政権基盤が揺らぎ、左派・右派ともに財政支出の拡大を求める声が強まっている。しかし、ECBのラガルド総裁は規律を重視し、安易な金融緩和を拒否。この政治的な対立が、フランスの財政問題をさらに悪化させているとヘイズ氏は指摘する。
ヘイズ氏の予測では、最終的にフランスは、外国人投資家が保有するフランス国債などに対して、デフォルト(債務不履行)に近い措置を取らざるを得なくなるという。フランスはEUで発行される証券の約4分の1を抱えており、同国がデフォルトすれば、域内の金融機関が保有する資産に直接打撃を与え、欧州全体の銀行システムを崩壊の危機に晒すことになる。
その時、ECBはシステムを救済するために「何でもする(whatever it takes)」しか選択肢がなくなり、ヘイズ氏の試算では、少なくとも5.02兆ユーロ(約866兆円)規模の資金を印刷することになると予測している。
増刷された法定通貨はビットコインへ
ヘイズ氏は、「ECBが今すぐ資金を印刷してフランスを救うか、あるいは後で資本規制を敷いてユーロが崩壊の危機に瀕してから印刷するかのどちらかだ。いずれにせよ、数兆ユーロが印刷される」と結論付けている。
この大規模な法定通貨の増刷は、ビットコインにとって極めて強気な材料となる。欧州から逃避する資本は、金(ゴールド)や米国株、そして究極の逃避先として「デジタルな無記名資産(digital bearer asset)」であるビットコインに向かう。ヘイズ氏は、「印刷されたユーロが、ドル、元、円などと合流し、ビットコインの価格を押し上げるだろう」と述べ、この一連の欧州金融危機が、次のビットコインの強気相場における強力な起爆剤になるとの見方を示した。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ユーロ=172.67円)