米証券取引委員会(SEC)の議長であるポール・アトキンス氏は15日、ワシントンD.C.で開催中の金融カンファレンス「DC Fintech Week 2025」に登壇し、暗号資産(仮想通貨)分野における米国の現状について「おそらく10年遅れている」との厳しい認識を示した。
過去のアプローチを批判し、イノベーション促進を明言
アトキンス議長は、これまでのSECの暗号資産に対するアプローチを2つのフェーズに分けて批判した。
第一のフェーズは「砂の中に頭を突っ込むダチョウ」であったと表現。これは、暗号資産という新たな技術トレンドがいずれ消え去ることを願い、問題を直視してこなかった姿勢を指す。
そして第二のフェーズが、近年の特徴であった「執行による規制(regulation through enforcement)」だ。明確なルール作りを怠る一方で、個別企業への訴訟を通じて市場をコントロールしようとしたアプローチである。
アトキンス議長は「我々はどちらも行わない」と断言。過去の方針を完全に否定し、新たなアプローチを取ることを強調した。
「イノベーション委員会」への転換
アトキンス議長が掲げる新たなビジョンは、SECを「証券・イノベーション委員会」へと変革することだ。その目的は、「米国から離れた人々を呼び戻し、イノベーションが繁栄できる合理的な枠組みを構築すること」にある。
同氏は、暗号資産などテクノロジー分野への対応が最優先課題であると繰り返し述べ、イノベーションを積極的に受け入れる姿勢を示した。
また、規制改革のための具体的なアイデアとして「イノベーション免除」と「スーパーアプリ構想」の2つを挙げた。
- イノベーション免除:管理された環境下で、企業が新しいアイデアやコンセプトを試験的に展開できる制度。
- スーパーアプリ構想:暗号資産企業がSECやCFTC(米商品先物取引委員会)など複数の規制当局への登録を一元化し、企業の負担を軽減する制度。
これらの構想は、企業が規制の不確実性を恐れることなく新しい挑戦をできるようにする一方で、当局間の連携を深め、非効率をなくすことを目的としている。
「最もエキサイティングなのはDLT」
アトキンス議長は、暗号資産の根底にある技術、特に分散型台帳技術(DLT)を高く評価している。同氏は、「暗号資産の中で最もエキサイティングなのはコインそのものではなくDLTだ」と発言。オンチェーン(ブロックチェーン上)で物事を処理する技術は、金融市場のリスクを低減し、透明性を高め、アクセスを民主化するなど、計り知れない潜在的な利益をもたらすと語った。
アトキンス議長が率いるSECの新方針は、これまで規制の不確実性に苦しんできた米国の暗号資産業界にとって、大きな転換点となる可能性がある。暗号資産市場全体にとってポジティブな要素と言えるだろう。
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