米連邦準備制度理事会(FRB)が、暗号資産(仮想通貨)やフィンテック関連企業に対して中央銀行の決済ネットワークへのアクセスを拡大する新たな口座制度「簡易型マスター口座」の導入を検討していることが分かった。21日、FRB理事のクリストファー・ウォラー氏が「決済イノベーション会議」で明らかにした。
暗号資産企業も直接決済網を利用可能に
ウォラー氏は講演で、これまで大手銀行など限られた金融機関しか利用できなかったFRBの「マスター口座」へのアクセスを見直す考えを示した。新たに検討されている簡易型マスター口座は、資金移動など基本的な決済機能に限定されたものとなっている。これにより、暗号資産企業は従来の銀行に依存した資金フローから脱却し、より迅速で透明性の高いドル決済を実現できる可能性がある。
特に、ステーブルコイン発行体にとっては大きな意味を持つ。現在、多くの発行体は裏付け資産となる米ドルを民間銀行に預けており、銀行側のリスクや規制方針に影響を受けやすい。FRBの口座を直接保有できれば、裏付け資産の保全性が高まり、換金リスクや決済遅延のリスクを低減できる。この仕組みは、ステーブルコインの信頼性を制度的に裏打ちする可能性がある。
ウォラー氏は「決済システムを積極的に変革している企業を支援するため、FRBはより柔軟な手段を検討すべきだ」と述べ、「技術革新の中心は常に民間にあり、中央銀行はその発展を理解し支える立場にあるべきだ」と強調した。
また、「DeFiや暗号資産の世界から生まれた技術が、主流の決済エコシステムに組み込まれつつある」との見方を示し、「かつてFRBがDeFi業界を懐疑的に見ていた時代は終わった。今や彼らは米国の決済の未来を語る対話の一員として歓迎される」と述べ、従来よりも開かれた姿勢を示した。
「オペレーション・チョークポイント 2.0」の終焉なるか
この動きは、米暗号資産業界が直面してきた「デバンキング(銀行口座閉鎖)」問題の転換点として注目されている。2023年に暗号資産に友好的な銀行が相次いで破綻した際、政府が銀行に対し暗号資産関連企業との取引を制限するよう圧力をかけていたとの批判が浮上した。この一連の動きは、業界内で「オペレーション・チョークポイント 2.0」と呼ばれ、規制当局による暗黙の排除政策と見なされてきた。
カストディア銀行の創設者でCEOのケイトリン・ロング氏はX(旧Twitter)上で、「ウォラー理事、決済専業銀行を締め出したFRBの過ちを認め、アクセスルールを見直す姿勢を示してくれてありがとう」と投稿し、従来の方針転換を歓迎した。
FRBが簡易型マスター口座を検討することは、暗号資産業界にとって制度的な壁を崩す第一歩だ。中央銀行の決済網に直接アクセスできれば、資金決済の透明性と効率性が高まり、業界の信頼回復にもつながる。
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