フランス国民議会は28日、暗号資産(仮想通貨)を国家戦略に組み込む包括的な法案を受理した。エリック・シオッティ議員ら14名が提出した法案第2022号は、ビットコイン総供給量の2%にあたる42万BTCの戦略備蓄を目標に掲げる。
法案は「ビットコインと暗号資産を受け入れ、新たな通貨秩序にフランスを適応させる」ことを目的とし、財政・経済・予算管理委員会に付託された。
原子力余剰電力でマイニング
法案によると、ビットコイン備蓄の財源は5つの柱で構成される。第一に、原子力・水力発電の余剰電力を活用した公的マイニングだ。フランスは電力の約70%を原子力でまかなっており、この優位性を活用する。
第二に、司法手続きで押収されたビットコインの保持。現在フランスは302件の暗号資産を押収しており、総額1億9,400万ユーロに達する。これまで売却していたが、法案は国庫移管を義務付ける。
第三に、国有資産売却時の資金充当。第四に、人気貯蓄商品「リブレA」と「LDDS」の資金の4分の1を毎日のビットコイン購入に充てる。2024年の両口座の純増額は約220億ユーロで、その25%にあたる55億ユーロ相当を年間購入に充てる計算だ。
第五に、ビットコインでの納税を認める。フランス人の10%が暗号資産を保有しており、総額214億~262億ユーロに達するとされる。
法案は達成期間を7~8年と見込む。現在のビットコイン価格は約10万ユーロで、1日あたり約150BTC、年間5万5,000BTCの購入ペースとなる。
ステーブルコイン200ユーロまで非課税
ユーロ建てステーブルコインについては、大胆な税制優遇を導入する。1日200ユーロまでの支払いを所得税・社会保障負担の対象外とし、申告も不要とした。
法案はステーブルコインを「ビザやマスターカードに代わる決済手段」と位置づける。現在、世界のステーブルコイン市場は2,300億ドル規模だが、その91%が米ドル建てだ。テザー社のUSDTが1,500億ドル、サークル社のUSDCが600億ドルを占める。
一方、ユーロ建てステーブルコインは2億5,900万ドルにとどまる。しかも最大のユーロ建てステーブルコインもサークル社が発行しており、米国企業が支配する構造だ。
法案は「米国がステーブルコインで世界をドル化している」と警鐘を鳴らす。米国は7月に「ジーニアス法」を成立させ、ステーブルコイン発行者に米国債保有を義務付けた。国際通貨基金(IMF)によると、米国債の1.6%がすでにステーブルコイン経由で発行されている。
法案と並行して提出された欧州決議案第1984号は、欧州中央銀行が推進するデジタルユーロの導入禁止を求める。理由はプライバシー侵害と政府による支出監視の懸念だ。
決議案は「中国の信用スコア制度とデジタル人民元の組み合わせは、個人の自由への重大な脅威」と指摘。デジタルユーロが同様の監視ツールになりうると警告する。代わりに民間発行のユーロ建てステーブルコインを推進し、MiCA規制の緩和を求める。
PEAに暗号資産ETN組み入れ
投資促進策として、株式貯蓄制度(PEA)に暗号資産連動の上場証券(ETN)を組み入れ可能にする。米国ではすでにビットコインETFが年金基金やPEA相当の口座で購入できる。
マイニング事業者向けには、電力料金の優遇制度を導入する。市場価格に連動した階段式の低減税率を適用し、電力が安い時間帯のマイニングを促す。実験期間は36カ月だ。
米国に対抗、欧州初の試み
法案は米国の戦略を強く意識している。トランプ大統領は3月にビットコイン戦略備蓄を創設する大統領令に署名し、現在21万3,297BTCを保有する。ルミス上院議員は2030年までに年間20万BTCを購入し、最終的に141万BTC(全供給量の6.7%)保有を提案している。
フランスは米国の約3分の1となる42万BTCを目指す。これは金保有比率を参考にした数字だ。フランスは金を2,437トン保有し、世界4位。米国の8,133トンの約3分の1にあたる。
提出者のシオッティ議員は右派・中道連合(UDR)の党首だが、国民議会577議席中わずか16議席しか保有していない。法案可決には他党の支持が不可欠だ。
しかし、フランス銀行のビルロワ・ドゥ・ガロー総裁も9月25日に「通貨革命が進行中」と認めており、政府内にも問題意識は広がっている。法案は年次報告書の提出を義務付け、目標達成度を毎年議論する仕組みを設けた。




