著名アナリストのElonTrades氏は12日、前日に発生した暗号資産(仮想通貨)市場の大暴落について、その原因が「Binance(バイナンス)」のシステム的脆弱性を突いた巧妙な組織的攻撃であったとする分析を公開した。
「USDeの失敗ではなく、担保システムの欠陥を悪用した巧妙な手口」
ElonTrades氏の分析によると、今回の事件の根本的な原因は、バイナンスが提供する、複数の取引で証拠金を一元管理できる「ユニファイドアカウント」機能にあった。この機能を利用する口座では、ユーザーはUSDeやwBETH、、BNSOLといった複数の資産を担保として預け入れ、取引を行うことができる。
しかし同氏は、その担保価値を評価する方法に重大な欠陥があったと指摘する。外部の信頼できる価格情報(オラクル)を参照するのではなく、バイナンス独自の取引板(オーダーブック)の価格に基づいて担保価値を計算していたため、取引所内の価格が操作されれば、担保価値が実態と大きく乖離するリスクを抱えていた。
皮肉なことに、バイナンスはこの問題点を認識しており、10月6日にはオラクルベースの価格評価システムへの移行を発表していた。しかし、その実施は10月14日に予定されており、攻撃者はこの8日間の「脆弱性の隙間」を突いた形だと同氏は分析している。
攻撃の実行—意図的な価格操作とマクロニュース
同氏の分析では、攻撃者はこの期間を利用し、バイナンスの取引板で約6,000万〜9,000万ドル相当のUSDeを意図的に投げ売りした。これにより、バイナンス上でのみUSDeの価格は一時0.65ドルまで急落。他の取引所では1ドル付近を維持していたにもかかわらず、バイナンスのシステムはこれを正当な価格と判断してしまった。
その結果、ユニファイドアカウントにUSDeを担保として預けていたトレーダーたちの証拠金価値は瞬時に消失し、バイナンス内で5億ドルから10億ドル規模の強制的なロスカットが連鎖的に発生したとされている。
さらに、このタイミングを狙ったかのようにトランプ大統領による「対中関税100%」のニュースが報じられ、市場のパニックが増幅。流動性が枯渇する中、暴落はさらに加速したと同氏は見ている。
巨額の利益—Hyperliquidでの空売り
さらに同氏は、この暴落の裏で攻撃者が莫大な利益を上げていたと指摘する。バイナンスでのUSDe投げ売りが始まる数時間前、分散型取引所(DEX)Hyperliquid(ハイパーリキッド)上で、何者かが11億ドル規模のビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のショート(空売り)ポジションを建てていたのだ。
バイナンスを起点とする暴落が市場全体に波及し、BTCとETHの価格が急落すると、このショートポジションは約1億9,200万ドル(約292億円)の利益を生み出し、価格が底を打ったタイミングで手仕舞いされた。ElonTrades氏は、資金の動きやタイミングの正確さから、これらが連携した動きであると予測しているようだ。
ElonTrades氏の分析によれば、バイナンスで発生した大規模な清算は、裁定取引ボットなどを通じて即座に他の取引所にも波及し、最終的に200億ドルを超える世界的な連鎖清算へと発展した。
未だ真相は明らかになっていないものの、今回の事件は、取引所側のシステム設計の不備がいかに市場全体を揺るがす大規模な混乱を引き起こしうるかを示す、重要なケーススタディと言えるかもしれない。
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