ブエノスアイレス市は19日、固定資産税や自動車税、運転免許証の発行手数料といった行政サービスに対する支払いを、暗号資産(仮想通貨)で受け付けると正式に発表した。
仮想通貨産業の国際的ハブ化を目指す取り組み
ホルヘ・マクリ市長は市内のカフェで「我々の目標は、ブエノスアイレスを仮想通貨の世界的なリーダーにすることだ」と宣言。経済のデジタル化へ適応し、新たなテクノロジー企業を誘致する市の明確な意思を示した。
この決定の背景には、アルゼンチンにおける仮想通貨の驚異的な普及がある。2024年のデータによれば、国内にはすでに1,000万以上の仮想通貨口座が存在し、これはラテンアメリカ全体の約22%を占める規模。ブエノスアイレス市内に限っても、少なくとも1万人が海外からの送金や収入の受け取りに仮想通貨などを利用しているという。慢性的なインフレーションに苦しむ同国において、多くの市民が自衛のために法定通貨ペソから仮想通貨へと資産を移している現実が透けて見える。市当局は、もはや無視できないこの経済実態を追認し、制度として取り込むことを選んだ。
今回の発表は、単に納税手段を増やすという話にとどまらない。市は同時に、仮想通貨関連ビジネスを促進するための一連の税制改革・規制緩和策を打ち出している。具体的には、以下の4つの施策が明らかにされた。
- 仮想通貨の売買を税務申告上の正式な経済活動として分類し、手続きを簡素化する
- 仮想通貨サービス事業者に対し、事業の足かせとなっていた銀行での源泉徴収制度の適用を除外する
- これまで取引総額に課税されていた総収入税を、売買差益のみを対象とするよう改める
- QRコードを通じて市民や企業が仮想通貨で納税できる仕組みを導入する
これらの施策は、事業者の税務上の不確実性を取り除き、運転資金の負担を軽減することを直接の目的としている。
マクリ市長が発表の場に選んだのは、実際に仮想通貨決済を受け入れている市内のカフェであった。その場には、「Binance(バイナンス)」や「Bitso(ビットソー)」、「Ripio(リピオ)」など複数の仮想通貨関連企業の代表者も同席し、官民双方の関係者が一堂に会した形となった。ブエノスアイレス市の経済開発大臣エルナン・ロンバルディ氏は「事務手続きの削減、法的安定性の向上、そして明確なルールは、より多くの投資を呼び込むだろう」と語った。
法定通貨の信認が揺らぐ国で、市民の現実的なニーズに応える形で始まったこの先進的な取り組み。これがブエノスアイレス市の経済に新たな活気をもたらすのか、あるいはさらなる混乱の種となるのか。その行方に、世界中から大きな注目が集まっている。
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