国際金融センターとしての地位強化を狙う
香港特別行政区政府財経事務・庫務局の許正宇局長は18日、香港で開催された「Consensus 2025(コンセンサス2025)」で、香港政府が金のトークン化の可能性を模索していることを明らかにした。
経済とは人間の欲望とイノベーションの交差点にほかならない。香港ではすでに金のトークン化が始まっており、政府もこの分野の発展を支援し、新たな市場機会を探っている。現物の金をブロックチェーン上で「デジタルトークン」にしてしまえば、小口での購入が容易になり、偽造や盗難リスクも抑えられる。香港は中国本土より規制が緩く、イノベーションの中心を狙うことで国際金融都市としての競争力も維持したいのだろう。
ときに筆者の妻は中華系タイ人なのだが、東南アジアを牛耳る華僑や華人の金好きは尋常ではない。
文字どおり「金命」である。正月や結婚式のたびに金塊や金のアクセサリーを買い足し、丁寧に磨き上げては先祖に捧げる姿は、もはや宗教と呼ぶにふさわしい。「貯蓄するなら『金』がいちばん安全だ」と真顔で言い切るほどで、金塊の重量なら目を閉じていても言い当てられるのではないかと思うくらい執心している。
そこで香港のトークン化ニュースを伝えたところ、妻と義姉は大興奮して「どこで買えるのか、どうやって買うのか」と矢継ぎ早に問いかけられた。あの目の輝きはまさに“バーツマーク”そのもので、これほどはしゃいだ様子を見たのは久しぶりである。
香港上海銀行(HSBC)はすでに「HSBC Gold Token」を提供しており、2024年3月から個人投資家向けに開放している。トークンは、HSBCの「Orionデジタル資産プラットフォーム」で発行され、香港証券先物委員会(SFC)の認可を受けた香港初の分散型台帳技術(DLT)ベースの小売商品だ。香港金融管理局(HKMA)も、デジタル資産関連の取り組みとしてトークン化された債券の発行を支援する補助金制度を導入しており、金融市場へのブロックチェーン技術の適用を進めている。こうした制度整備が進めば、今後、民間企業の参入もさらに活発化する可能性がある。
海外では、ドバイが2022年から「Comtech Gold(コムテック・ゴールド)」を通じて金のトークン化を進めている。物理的な金塊に裏付けられたトークンを発行し、シャリア適合の認証を取得するなど、イスラム金融市場にも対応している。各国がトークン化を進める中、香港がこの分野でどこまで競争力を発揮できるかが注目される。もっとも、ブロックチェーンが絶対安全とは限らず、セキュリティや投資家保護の枠組みが今後の課題となる。
香港政府は国際金融センターとしての地位強化を狙い、デジタルとリアルの融合による新たな市場を切り拓こうとしている。中国本土が暗号資産(仮想通貨)規制を厳しく運用している一方で、香港は異なる法制度を活用できる点も大きい。こうした条件がそろえば、金の次に不動産やコモディティへ応用が広がるのは自然な流れであり、それを主導するのが香港という構図は「当然の帰結」だろう。