暗号資産(仮想通貨)取引所「BitMEX(ビットメックス)」の共同創設者アーサー・ヘイズ氏は28日、新たなエッセイ「Adapt or Die(適応か死か)」を公開した。
「無期限先物」が既存金融に持ち込まれる
ヘイズ氏はエッセイの中で、伝統的金融の著名人たちが、かつてビットメックスが世界で初めて実用的な金融商品として完成させた「無期限先物(Perpetual Swap)」を「大量破壊兵器」と呼び、軽蔑していた過去を回想した。
無期限先物は、満期日が存在せず、「資金調達率(ファンディングレート)」を用いて現物価格との乖離を調整するデリバティブ商品である。ビットメックスはこの仕組みを独自に考案し、ビットコインを対象とした最大レバレッジ100倍の商品として提供を開始したが、当時の伝統的金融界からは異端視されていた。
しかし2025年現在、シンガポール証券取引所(SGX)やシカゴ・オプション取引所(CBOE)といった伝統的な取引所が、2025年末までにビットコインやイーサリアムなどを対象とした無期限先物や類似商品の提供を開始しようとしている。ヘイズ氏はこれを「適応か死か」の瞬間であるとし、伝統的金融が生き残るためには、かつて異端とした暗号資産市場のイノベーションを取り入れざるを得なくなっていると分析した。
ヘイズ氏は、無期限先物が個人投資家に支持される理由として「レバレッジ」と「流動性」の2点を挙げている。
伝統的な金融機関は「決済の保証」を前提とするため、高い資本要件が必要となり、個人に対して高いレバレッジを提供することが困難である。一方、暗号資産取引所は「社会化された損失(Socialized Loss)」システム(保険基金やADLといった仕組みのこと)を採用することで、決済の完全保証を放棄する代わりに、高いレバレッジと24時間365日の取引環境を実現した。これが、個人投資家を惹きつける決定的な要因であると同氏は主張する。
次の戦場は「株式」──24時間取引の衝撃
ヘイズ氏が次の大きなトレンドとして挙げるのが、「株式版無期限先物(Equity Perps)」である。
同氏は、現在の米国株式市場が世界最大である一方で、多くの個人投資家がそのアクセスに制限を受けていると指摘。特に、「NVIDIA(エヌビディア)」のような世界的なテクノロジー企業の株式を、「24時間いつでも高いレバレッジで取引したいという需要は世界中に存在する」と述べる。
その先駆けとして、分散型取引所(DEX)のHyperliquid(ハイパーリキッド)が提供するNasdaq100指数の無期限先物が、すでに1日あたり1億ドル(約156億円)以上の取引高を記録していることに言及した。
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ヘイズ氏は、「2026年末までに、エヌビディアやS&P500、ナスダック100といった米国株の取引の中心が、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のような伝統的市場から、24時間取引可能な暗号資産取引所の無期限先物市場へと移行する」と予測した。これにより、世界中の個人投資家が参加する暗号資産取引所の価格が、株式市場全体の基準価格を決めるようになるという。
トランプ政権下の4年間で市場制圧へ
ヘイズ氏は米国の政治情勢についても触れ、ドナルド・トランプ次期大統領の親クリプト的な姿勢を「政治的な賢明さと復讐」の結果であると分析した。
ヘイズ氏によると、トランプ氏とその一族は、2020年の選挙敗北後に銀行口座を凍結されるという経験を通じて、銀行システムの恐ろしさと、「政治的に中立なハードマネーとしてのビットコインの必要性を痛感した」という。この個人的な「復讐」の動機と、暗号資産コミュニティからの巨額の献金という「実利」が、現在の規制緩和への転換を生んだとしている。
ヘイズ氏は、このトランプ政権下での規制緩和が、暗号資産市場及び既存金融システムにとって決定的な「猶予期間」になると見ている。
これまで規制当局は、投資家保護や既存システムの維持を名目に、暗号資産市場で生まれた「無期限先物」のようなハイレバレッジ商品の導入を阻んできた。しかし、政治トップが「親クリプト」へと転換することは、すなわち既存金融を保護していた規制の撤廃を意味する。「世界の規制当局は米国の動向に追随する」ため、少なくともトランプ政権が終わる2029年までは、世界的にこの傾向が続くとヘイズ氏は予測する。
同氏は、この4年間の間に株式版無期限先物などのイノベーションが伝統的金融からシェアを奪い、次の政権がアンチ・クリプトに戻ったとしても「もはや破壊不可能なほど巨大な影響力を持つようになっているだろう」と結論付けた。
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