タイ政府が8月18日より、外国人観光客が保有する暗号資産(仮想通貨)をタイバーツに換金し、現地での支払いに利用できる新たな制度「TouristDigiPay(ツーリストデジペイ)」を開始することがわかった。17日、現地メディアの「The Nation Thailand(ザ・ネーション・タイランド)」が報じた。
QRコード決済に対応、国家主導の新制度
この制度は、特に中国からの訪問者数の減少を背景に低迷する観光業を活性化する目的で導入される。仮想通貨という新たな決済手段を活用し、外国人観光客の利便性向上と経済効果の拡大を目指す。
ツーリストデジペイを利用するためには、観光客はタイ証券取引委員会(SEC)が規制するデジタル資産事業者および、タイ銀行(BOT)が管轄する電子マネー事業者に口座を開設する必要がある。加えて、マネーロンダリング対策局(AMLO)の定める厳格なKYC(本人確認)およびCDD(顧客審査)をクリアしなければならない。
サービス対象は、短期滞在中の外国人観光客に限られる。観光客は自分の仮想通貨をバーツに両替した上で、スマートフォンなどを使ったQRコード決済により、現地での支払いに利用できる。なお、現金の直接引き出しは認められず、アカウント解約時のみ残高の払い戻しが可能となる。
BOTのナポンタワット・ポーティキット部長によると、中央銀行は電子マネー事業者と連携し、観光客向けの「Tourist Wallet(ツーリスト・ウォレット)」を開発中である。QRコード決済が未整備の国の旅行者に対応し、初期は電子マネーとして、将来的には外国のデビット・クレジットカードとの連携も視野に入れている。
制度には、マネーロンダリング等の金融犯罪を防ぐための複数の安全措置が組み込まれている。例えば、月間取引上限は、カード端末を有する加盟店で50万バーツ(約226万円)、一般的な小規模加盟店では5万バーツ(約22万円)に設定される。また、AMLOが高リスクと判断する業種での利用は禁止されている。
また制度の運用は、規制当局による監視の下で行われる「サンドボックス」環境内で実施される。これは、金融犯罪のリスクを最小限に抑えつつ、制度の有効性を検証するための措置だ。
本制度は、政府と金融当局が連携して進める国家主導の取り組みであり、仮想通貨を公的に観光政策に組み込む点が特徴的だ。今後の制度運用次第では、他国の参考モデルとなる可能性もある。
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