ステーブルコインが金融システムを脅かす?欧州中央銀行が警告

伊藤 将史
12 Min Read
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Highlights
  • ステーブルコインの時価総額が過去最高の2,800億ドル超となり、USDTとUSDCが市場の約90%を占める構図
  • USDTやUSDCが米国債を大量保有し、取り付け騒ぎ発生時には米国債市場へ悪影響が波及するリスク
  • 各国の規制要件の不一致が規制アービトラージを招き、国際的な統一規制の必要性が浮上

欧州中央銀行(ECB)は24日、ステーブルコイン市場の急速な拡大が金融システムの安定性にリスクをもたらす可能性があると警告する報告書を公開した。

市場規模は過去最高の2,800億ドル超、USDTとUSDCが90%を占める

ECBが発表した報告書「Stablecoins on the rise: still small in the euro area, but spillover risks loom」によると、ステーブルコインの時価総額は過去最高の2,800億ドル(約43.9兆円)を突破し、暗号資産(仮想通貨)市場全体の約8%を占めるまでに成長している。

市場は米ドルペッグのステーブルコインが支配的で、「Tether(USDT)」が1,840億ドル(約28.8兆円)で63%、「USD Coin(USDC)」が750億ドル(約11.7兆円)で26%のシェアを占めており、2社で市場の約90%を占める状況だ。一方、ユーロ建てのステーブルコインはわずか3億9,500万ユーロ(約713億円)にとどまり、市場全体に占める割合は極めて小さい。

ECBは、ステーブルコインが暗号資産取引において不可欠な役割を果たしているとし、中央集権的な取引所で行われる全取引の約80%にステーブルコインが関与していると指摘した。

伝統的金融との結びつきがリスクに

報告書では、ステーブルコインが直面する主なリスクとして、償還への信頼喪失による「取り付け騒ぎ」や、米ドルとのペグ(連動)が外れる「デペグ」を挙げている。

特に懸念されているのが、伝統的な金融システムとの相互接続性の高まりだ。USDTやUSDCといった主要なステーブルコインは、裏付け資産として大量の米国債を保有している。ECBのデータによると、これらの発行体は米国債の主要な購入者の一つとなっており、その保有規模は世界最大級のMMF(マネー・マーケット・ファンド)トップ20に匹敵するという。

もし大規模なステーブルコインの取り付け騒ぎが発生し、裏付け資産の投げ売りが行われれば、米国債市場の機能に悪影響を及ぼす可能性があるとECBは警鐘を鳴らしている。一部の予測では、ステーブルコインの時価総額は2028年までに2兆ドル(約313兆円)に達する可能性があり、リスクはさらに拡大する恐れがある。

規制の不一致がアービトラージリスクに

ECBはまた、世界的な規制の不一致が「規制アービトラージ(規制の隙間を利用した取引)」のリスクを生んでいると指摘する。EUでは「暗号資産市場規制(MiCAR)」が施行され、米国でも「GENIUS法」が成立するなど規制整備が進んでいるが、国や地域によって準備金要件などに差異が残っている。

ECBは、金融安定性委員会(FSB)の勧告やバーゼル銀行監督委員会の基準などに基づき、世界レベルでの規制枠組みの整合性を高めることが重要であると結論付けた。

この報告からもわかるとおり、すでに暗号資産市場は「ステーブルコインの裏付け資産」によって、既存金融と強く結びついている。そのため、もし暗号資産市場が混乱すれば、それが既存金融全体の混乱へと波及する可能性が高いと言えるだろう。

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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=156.69円、1ユーロ=180.54円)

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SOURCES:ECB
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2017年の仮想通貨ブームの頃に興味を持ち、以降Web3分野の記事の執筆をし続けているライター。特にブロックチェーンゲームとNFTに熱中しており、日々新たなプロダクトのリサーチに勤しんでいる。自著『GameFiの教科書』。
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