ECB総裁クリスティーヌ・ラガルド氏
「今なぜデジタルユーロなのか?」という問いかけは、「今なぜ当然にはデジタルユーロではないのか?」という問いを内包する。ラガルド氏の発言をてがかりに、今年10月開始予定のデジタルユーロについて考察する。
欧州中央銀行(ECB)総裁を務めるクリスティーヌ・ラガルド氏は7日、ECBの中央銀行デジタル通貨(CBDC)である『デジタルユーロ』を10月に開始することをビデオ内で宣言した。
今なぜ当然にはデジタルユーロではないのか?
- ファーストペンギンリスク
現段階でデジタルユーロを開始すると、大国のCBDCの中では大幅に先行しているデジタル人民元を一足飛びに追い抜き、前例のない領域に突入する。CBDCの場合、ファーストペンギンは未知のリスクに見舞われるおそれがある反面、他に先んじるメリットが乏しい。 - プライバシー保護法の未整備
デジタルユーロは、全取引がブロックチェーンに記帳されるべきことがラガルド氏から言及されている。だが、それに伴うべきプライバシー保護の法整備が後手に回っている。 - 国際協調の未熟
CBDCの本格導入には国際協調が不可欠であるが、EU内ですら経済格差やCBDCの必要性の格差が大きく、足並みがそろっているとは言いがたい。
今なぜデジタルユーロなのか?
- テロ防止
ラガルド氏は、デジタルユーロは全取引をブロックチェーンに記帳することで、少額のテロ資金もシャットアウトしたい、と明言している。なお、直接的には言及されていないが、フランス国内にいるイスラム過激派対策に、デジタルユーロは大きな威力を発揮するだろう。 - 米国企業への対抗
ラガルド氏は、デジタルユーロ開始を急ぐべき理由として、米国巨大企業に対する牽制の必要性を挙げている。ビデオではFacebookとGoogleが名指しされた。GAFAMの一角を占める両社は、独自のデジタル資産の発行を目論んでいる。 - 労働運動の鎮圧
ラガルド氏は、現在フランスで活発化・過激化している労働運動に言及し、かつて中国が香港で行ったように、デモ参加者の資産凍結の可能性をにおわせた。デジタルユーロであれば、デモ参加者の資産凍結は容易だ。
ラガルド氏の本音
デジタルユーロは、デジタル人民元やデジタルドルと同じ悩みを抱えている。
「デジタルユーロ」「デジタルドル」「デジタル人民元」の三者は、テロとの対決を標榜する点で共通している。だが、今回のラガルド氏のビデオからは、「すべての個人情報を掌握し、反体制運動を取締りたい」という、支配層の本音が垣間見れた。
関連:米中の暗号資産政策の違いくっきり|中国人民銀行・副総裁の発言
関連:豪バイナンスが大幅縮小|バイナンスが眼の敵にされる3つの理由