ホールケーキを丸ごと狙う戦略
イスラエル発のグローバル投資プラットフォーム「eToro(イートロ)」は19日、欧州で暗号資産(仮想通貨)サービスを提供するため、MiCA(Markets in Crypto-Assets)規制のもとでキプロス証券取引委員会(CySEC)から認可を受けたと発表した。これにより、EU加盟国を含む欧州経済領域(EEA)全域で仮想通貨サービスを展開できるようになる。
MiCAとは、EUが仮想通貨市場を統一的に規制するための枠組みで、仮想通貨サービスプロバイダー(CASP)にライセンス取得を義務付ける。2024年6月に一部施行され、2025年末までに完全適用される。イートロはこの規制に素早く対応し、EU全域での正式な営業許可を獲得した。規制をクリアした企業は信頼を集める一方、遅れた企業は市場から弾かれる可能性がある。
EU市場は、多数の国が集まる巨大な投資エリアだが、これまでは各国ごとに異なる規制が存在し、企業はそれぞれの国で個別にライセンスを取得しなければならなかった。MiCAによる統一規制が進めば、一度ライセンスを取得すればEU全域で活動できるようになる。チーズケーキに喩えれば、これまでは各国ごとにスライスを取るように参入していたのが、MiCAによりEU市場をホールごと手に入れられる。イートロはその戦略をいち早く打ち出した。
欧州はすでにイートロ最大の市場であり、数百万人規模の顧客が存在する。企業としてこの市場を逃す手はない。特に欧州の投資家は、伝統的な金融商品に加え、新しい資産クラスにも関心が高く、しっかりとした規制が整えば仮想通貨への投資も加速する。
競合の状況を見ると、オーストリアの「Bitpanda(ビットパンダ)」はドイツのBaFinからMiCAライセンスを取得しているが、ユーザー数が600万人程度とみられる。一方でイートロは3,800万ユーザーを抱える。「OKX」や「Crypto.com(クリプトドットコム)」もマルタから認可を受けているが、伝統的な金融資産と仮想通貨を両方扱う総合プラットフォームとしてはイートロほどの存在感を持たない。一方で「Binance(バイナンス)」はフランス、ドイツ、オランダなどで規制の影響を受け、一部市場から撤退を余儀なくされている。規制対応のスピードが、市場のシェア争いを決定づける局面になりつつある。
イートロのウリといえば、コピー取引やソーシャルトレーディングである。成功している投資家を真似て資金を動かすことができ、仮想通貨への投資にも応用可能だ。そのためユーザー数を伸ばしやすい。
マネロン防止やAML/CFT、インサイダー取引を徹底的に取り締まる体制は厳しさを伴う。しかし、こうした規制が存在すれば大口の機関投資家も参入しやすくなる。市場が拡大すれば正規のプラットフォームには朗報であり、一方であやしいサービスは淘汰される。イートロのように基準をクリアした企業が優位に立つという構図が浮かび上がる。
イートロは以前から金融ライセンスを複数取得しており、今回の欧州向けMiCAライセンスも自然な流れだ。他社より先に利用者数やブランド力を固める戦略に抜かりはない。市場が安定し、機関投資家が加速的に参入する局面を見据えて、イートロは欧州でユーザーを着々と増やしている。競合他社も次々とライセンスを得るにしても、イートロのソーシャルトレーディングとマルチアセット戦略は強力だ。MiCAによって業者の生死が振り分けられるなか、イートロは明らかに生き残る側に立っている。