Canton Networkとは?ウォール街の巨人が選ぶ金融特化ブロックチェーンの特徴と将来性

ヤマダケイスケ
61 Min Read

銀行や証券会社といった世界の金融のプロたちが、次世代のインフラとして活用しているのが「Canton Network(カントンネットワーク)」です。機関投資家向けのこのネットワークは、従来の金融システムが抱えていた「プライバシー・規制遵守・システム連携の壁」といった長年の課題を独自の技術をもって解決しようとしています。

この記事では、金融の常識を覆すCanton Networkの特徴、すでに動き始めている大手金融機関による具体的な活用事例、そして私たち一般投資家にもたらす恩恵などを徹底解説します。

Canton Network(カントン・ネットワーク)とは?特徴を解説

Canton Network公式サイト
ネットワーク名Canton Network(カントンネットワーク)
開発元Digital Asset
運営・管理Canton Foundation
運営開始2024年7月
独自トークンCanton Coin
コンセンサスアルゴリズムプルーフ・オブ・ステークホルダー
公式サイトhttps://www.canton.network/
公式Xhttps://x.com/cantonnetwork
公式Discordhttps://discord.com/invite/HMy2hQZySN

Canton Network(カントンネットワーク)は、従来の金融取引が抱えていた「秘密を守りつつ、多くの銀行と連携する」という難題を解決するために誕生した機関投資家向けのレイヤー1ブロックチェーンです。

「パブリック許可型」という設計により、機密データを厳重に守りながら、取引の相手先とだけ必要な情報を共有することが可能。さらに、異なる金融システム間でも、まるでひとつのシステムのように資産やデータをやり取りできる「相互運用性」を実現している点が特徴です。

現在は開発元である「Digital Asset」から独立し、オープンソースとして公開。Canton Foundationによる中立的なガバナンスのもとで運営されています。Canton Networkは金融機関がセキュリティや規制を気にすることなく、本格的にブロックチェーン技術をビジネスに活用するための確固たる土台を築こうとしています。

Canton Networkの技術的な特徴については、ぜひ以下をご覧ください。

ネットワークのネットワークとして機能

従来の金融市場では、個々の金融機関が独自のシステムを運用しており、異なるシステム間での資産やデータのやり取りが極めて複雑でした。しかし、Canton Networkはこの課題をプロトコルレベルで解決します。

Canton Networkは、アプリケーションごとに最適化された小さなサブネットや同期ドメインを組み合わせた集合体として構築されています。これにより、銀行や証券会社などはCanton Networkという共通基盤上に、自社のユースケースに合わせた独自のアプリケーションを柔軟に構築することが可能です。

ネットワークのネットワーク
出典:Canton Networkホワイトペーパー

このネットワークの中核技術は、独立したアプリ間でアトミックなスマートコントラクトの呼び出しを可能にすることです。複数のスマートコントラクト操作を「すべて成功するか、すべて失敗するか」というひとつの単位として扱い、ネットワークの同期によってアプリ間の操作をシームレスに連携させます。

こうした技術により、Canton Networkは個々の金融機関の要件を満たしつつ、相互運用性を実現する決済レイヤーとして機能。従来のパブリックチェーンでは不可能だった「機密性」と「広範な連携」という相反する要求を両立させています。

言語レベルでプライバシーを保証する設計

Canton Networkの採用するスマートコントラクト言語「DAML」は、言語レベルでプライバシーを保証する設計を特徴としています。

一般的なブロックチェーンではデータが公開台帳に記録されるため、デフォルトで透明性が高く、機密情報を扱うには追加の暗号技術が必須でした。

一方、Canton Networkはスマートコントラクトのすべてのデータが自動的にプライベートに保たれます。取引はサブトランザクションレベルに分割され、その取引に関わる当事者だけが内容を知ることができます。

サブトランザクションレベルのプライバシー
出典:Canton Networkホワイトペーパー

つまり、Canton Networkは「各当事者が知る必要がある情報だけを共有する」という厳格なプライバシー原則を、スマートコントラクト言語レベルで強制しています。

また、「誰がどの操作を行えるか」をコード内で明示的に定義することも可能であるため、金融機関はセキュリティを気にせずビジネスロジック開発への集中が可能です。

金融機関が最も重視するプライバシーとセキュリティを言語設計の段階から組み込むことで、Canton Networkは業界大手の銀行や証券会社などから高い信頼が寄せられています。

「プルーフオブステークホルダー」の採用

Canton Networkのコンセンサスアルゴリズムは、独自の「プルーフ・オブ・ステークホルダー(Proof-of-Stakeholder)」を採用しています。これは、DAMLで定義されたプライバシー要件に従い、取引に関与する当事者のみがその取引の検証を担うという仕組みです。

プルーフ・オブ・ステークホルダーの仕組み

  1. Canton Network上で新たなスマートコントラクト取引が作成
  2. DAML言語によってデータ閲覧に必要な権利と義務がコード内で定義
  3. Global Synchronizerがデータに関与するバリデータに対して情報を送信
  4. 情報を受け取ったバリデータが検証プロセスと最終的な合意を実施

※Global Synchronizer=Canton Networkの中心的なインフラ、分散型相互運用性サービス

上記のとおり、取引に無関係なノードが検証作業を行わないため、トランザクション処理がより効率的に進みます。もちろんこれらに関連するデータは検証者以外には非公開となっており、機密情報が第三者にもれる心配がない点も重要です。

プルーフ・オブ・ステークホルダーは従来のコンセンサスアルゴリズムとは異なり、「業務効率・機密性・規制遵守」などにも重点に置いた、金融業界特有の要件を満たすための設計と言えます。

ネイティブトークン「Canton Coin」の発行

Canton Coin(CC)は、「安全で信頼できる金融取引用のデジタル資産」という位置付けのネイティブトークンです。Canton Network上では主にネットワーク上での決済・清算、ネットワーク参加者へのインセンティブなどに活用されます。

特徴的なのは事前発行やプレセール、チームやVCへの配分が一切ない点です。トークンの全てはネットワークへの貢献のみを通じて配布されます。報酬の分配先はネットワークの成熟に合わせて、初期のインフラ報酬から後のアプリ開発者やバリデータへと戦略的に変化する設計です。

また、CCはデフレモデルを採用しており、ネットワーク手数料として使用されたすべてのトークンがバーン(焼却)されます。新たなCCはネットワーク活動に応じて10分ごとにミント。Canton Networkは将来的に年間約25億CCのバーンとミントが一致する状態を目指すとしています。

Canton Networkのユースケース・活用事例

高い機密性と相互運用性というCanton Networkの設計は、すでに金融大手からも認められています。ここでは、実際に金融機関がどのようにCanton Networkを活用しているのか、その事例を紹介します。

資産のトークン化と効率的な取引

2025年7月、「BNY Mellon(BNYメロン)」と「Glodman Sachs(ゴールドマン・サックス)」は共同で、機関投資家向けのトークン化されたマネー・マーケット・ファンド(MMF)ソリューションを立ち上げました。

これはMMFの持分をトークン化することで、より効率的かつ柔軟にMMFを利用できるようにする金融インフラです。主にMMFのリアルタイムでの所有権データ状況、担保としての持分利用、取引における即時決済といった利点を提供します。

初期参加ファンドとして「Blackrock(ブラックロック)」や「Fidelity(フィデリティ)」などが名を連ねており、複数の主要なMMFクラスがトークン化の対象として挙げられています。

この革新的なソリューションの基盤になっているのが、Canton Network上で構築された「GS DAP(Goldman Sachs Digital Asset Platform)」です。伝統的な金融の巨人がCanton Network上で現実資産(RWA)のトークン化を本格的に始動した画期的な事例といえるでしょう。

シンジケートローン市場の効率化

大手金融グループ「Barclays(バークレイズ)」は、「Versana(ベルサナ)」というプラットフォームを通じてCanton Networkを活用し、シンジケートローン市場の非効率性の解消を目指しています。

※シンジケートローン=複数の金融機関が協力してひとつの企業に協調融資を行う仕組み

従来、シンジケートローン市場における取引では各銀行のシステムが異なるため、ローン情報の共有や更新に時間差が生じ、データの不整合が頻繁に発生していました。

しかし、バークレイズはCanton Networkを活用することで、幹事銀行が保有するデータを一貫したリアルタイムベースでの補足・同期を可能にしました。これによりデータの不整合性が大幅に減少し、処理スピードと正確性のさらなる向上に繋がっています。

ベルサナとの連携は、複雑な金融取引のデータ処理を効率化し、Canton Networkを金融機関向けの共通ネットワークユーティリティとして機能させる重要な一歩となっています。

既存デジタル債券の流動性向上

2025年9月、世界的な金融大手「BNP Paribas(BNPパリバ)」と「HSBC(香港上海銀行)」が「Canton Foundation」に正式加入しました。これはデジタル債券市場にとって大きな一歩です。

両行はこれまで、デジタル債券の発行を支援しているという共通点があります。BNPパリバはスロベニア初のEUソブリンデジタル債券の発行を主導。HSBCでは同行が運営する「Orion」というプラットフォーム上でルクセンブルク国家財務省が5,000万ユーロのデジタル債券を発行しています。

BNPパリバやHSBCを通じて発行されたデジタル債券がCanton Networkという共通のハブに集約されれば、他の参加者やプラットフォーム間での垣根を越えた資産取引が容易になることが期待できます。

さらに、大手債券取引プラットフォーム「Tradeweb(トレードウェブ)」も財団メンバーであることから、デジタル債券がトレードウェブ上で取引される道が開かれる可能性も考えられるでしょう。

この大手機関の参加と実績は、Canton Networkが世界で分断されていたデジタル債券市場に統一性をもたらし、流動性を飛躍的に高める決済・取引基盤となることを示唆しています。

クロスチェーン融資による資産活用

2025年10月、Canton Networkに「Asterizm Protocol(アステリズム・プロトコル)」を用いた初の担保ブリッジが誕生しました。この担保ブリッジは、Canton Networkを含む30以上のブロックチェーン間で仮想通貨やトークン化された資産などを安全に移動させることを可能にします。

特に注目すべきは、Canton Coinを担保として使い、イーサリアム上のステーブルコインを借り入れできる「クロスチェーン・レンディング」が利用例として示されたことです。これにより、Canton Coinに金融的な価値と実用性が付与されたトークンとして生まれ変わりました。

この画期的な仕組みは、Canton Networkがより大きな金融市場と深く結びつくための重要な一歩となります。将来的にはこの技術が、金融機関の巨大な資産をネットワークの公開・非公開を問わずに統合し、Canton Networkの流動性を大きく改善することが期待されます。

Canton Networkの現状から見る将来性

Canton Networkはすでに実験段階を超え、世界の主要金融インフラとしての地位を確立しつつあります。ここでは、現在の市場での立ち位置から見る、Canton Networkの将来性について解説します。

主要金融機関による強力な支持と導入

Canton Networkの運営とガバナンスは、グローバルに展開する大手金融機関や証券会社など、40社以上が加盟する「Canton Foundation」によって行われています。以下はその一部です。

参加機関ネットワーク上の主な役割・実績
BNP Paribas (BNPパリバ)ガバナンス・エコシステム開発に参画
HSBC(香港上海銀行)ガバナンス・エコシステム開発に参画
SBIデジタルアセットホールディングスガバナンス・エコシステム開発に参画
Goldman Sachs (ゴールドマン・サックス)トークン化MMFソリューションの発表
Microsoft (マイクロソフト)ネットワーク立ち上げの技術基盤の提供
Chainlink (チェーンリンク)オラクルサービスやCCIPの提供
Deloitte (デロイト)コンサルティングとエコシステムの構築支援

規制対象の企業が深く関与し、技術検証と導入を進めている現状は、ブロックチェーン技術が単なる実験段階を超え、金融市場のメインストリーム(主流)へと移行していることを示しています。

この強力な支持体制こそが、Canton Networkを未来の金融インフラの核心へと押し上げる大きな要因のひとつです。今後さらに多くの金融機関が参入してくることで、Canton Networkは業界のスタンダードになる可能性を秘めています。

トークン化資産市場における地位確立

主要金融機関による支持を追い風に、Canton Networkは特にトークン化資産市場の領域でその影響力を強めています。

公式情報によると、2022年以降に発行されたデジタル証券のうち、57.5%(46億ドル超)がCanton Network関連基盤で発行。さらに、2024年だけでもCanton Network上の3つの基盤から5つのデジタル証券が発行されており、その総額は11億ドルを超えるとされています。

2025年執筆現在においては、トークン化された資産は約6兆ドルを突破するまでに規模を拡大。Canton Networkがこの分野で圧倒的なシェアを獲得している事実は、多くの金融機関が既存のインフラからCanton Networkへと移行する「市場の選択」の結果であるといえるでしょう。

こうした実績は、Canton Networkがトークン化資産市場における揺るぎない中核インフラであることの証明です。今後もCanton Networkは、市場での地位をさらに確立していくと予想されます。

一般層の投資機会拡大と低コスト化

Canton Networkは機関投資家向けですが、その発展は「市場全体の効率化とコスト削減」という形で間接的に一般層である私たちにも恩恵をもたらします。

Canton Networkが主導になってトークン化資産市場を拡大していくことで、これまで機関投資家しかアクセスできなかった資産へのアクセスが可能になる可能性があります。これが実現すれば、一般投資家の資産運用の選択肢が拡大し、ポートフォリオの多様化が図りやすくなるでしょう。

また、機関投資家の取引がCanton Networkによって効率化されれば、従来の仲介プロセスが減少し、取引・運用コストが大幅な削減が期待できます。この運用・管理手数料の引き下げなどは、一般投資家が利用する金融商品にも反映されるかもしれません。

技術的な観点からもCanton Networkは私たちとは直接的な接点がないように思えますが、その技術が金融市場の根幹を変革することで、間接的に投資環境が改善されることが予想されます。

一般層のポータルとして機能する「LOOP」

一般層のポータルとして機能する「LOOP」
ウォレット名LOOP(ループ)
主要な機能Canton Coinの保管
Canton Coinの送受信
※機能性は拡張予定
対応ネットワークCanton Network
対応デバイスパソコン・スマホ(ブラウザ)
秘密鍵の管理自己管理(セルフカストディ)
日本語対応なし
公式サイトhttps://cantonloop.com/
公式Telegramhttps://t.me/+01Dx4RdJ9_gxOGQ0
情報は2025年11月5日時点

Canton Networkは機関投資家向けですが、一般ユーザーもそのエコシステムへ安全かつ簡単にアクセスできます。一般ユーザーの「入口(ポータル)」として機能するのが、仮想通貨ウォレット「LOOP(ループ)」です。

LOOPは、Canton Coinをはじめとした資産を管理・利用するために開発された、Canton Network最初のノンカストディアルウォレットのひとつです。Canton Networkの複雑な技術を意識させず、ユーザーにとって直感的で分かりやすい操作性を提供しており、すでに5万人ものアクティブユーザー数を抱えています。

LOOPの開発・運営を主導するのは、次世代の金融ネットワーク向けのコアシステムを手掛ける「Five North(ファイブ・ノース)」です。同社は、Cantonエコシステムにおけるプライバシー保護と相互運用を可能にするための重要な役割を担っています。

LOOPの特徴・強み

  • 秘密鍵の自己管理:運営側でなく、ユーザー自身が秘密鍵を完全にコントロール
  • トークンの一元管理:Canton Network上の全資産の保管、運用、送受信を完結
  • ベータ版参加報酬:早期参加者にCanton Coinを無料で獲得できる機会を提供
  • 特別な資産へのアクセス:将来的なトークン化債券、BTC利回り商品などの提供
  • ワンステップトランスファー:複数の取引処理を1回の操作で完結させる設定が可能

2025年11月現在、LOOPは招待制を導入しており、承認まで大変時間を要している状況となっています。 少しでも早くLOOPを利用したい方は、下記メールアドレス(LOOPジャパン)に空メールを送信すると、早く処理を行ってもらえます。 ぜひご活用ください。

メールアドレス:japan@cantonloop.com

関連:Canton Network専用ウォレット「LOOP」とは?特徴や使い方を解説

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仮想通貨やBCGをメインに執筆活動を行うWebライター。2021年、ビットコインの大幅な値上がりに興味を持ち、仮想通貨の世界に参入。Binance、Bybitをメインに現物取引やステーキングサービスを活用し、資産運用を進めている。
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