フィデリティ、イーサリアム上でMMF記録管理へ|米SECに新クラスを申請

木本 隆義
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画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

伝統金融による段階的なブロックチェーン活用

米資産運用大手「Fidelity Investments(フィデリティ・インベストメンツ)」は21日、ブロックチェーン上で運用される米ドル建てマネーマーケットファンド(MMF)のシェアクラス新設を目的として、米証券取引委員会(SEC)に登録申請書を提出した。

マネーマーケットファンドとは、短期国債や現金同等物などの手堅い金融資産を少しずつ購入して安定的に運用する商品である。そこにブロックチェーン技術を組み込むというのだから、思い切った試みだ。しかも、イーサリアムのパブリックチェーンを活用するという点には、大きなチャレンジ精神を感じる。こうした動きが「伝統金融の側から」現れる時代になったことは感慨深い。

肝心のしくみはというと、運用そのものはほぼ従来型の米国債MMFとほぼ同様だ。書類上でも「暗号資産(仮想通貨)には一切投資しない」という方針が明確に示されている。では、ブロックチェーンをどう使うのかというと、保有記録をイーサリアム上に載せるということだ。ただし、ブロックチェーン上の記録はあくまで”参考データ”に近く、正式な名義管理はオフチェーンで行う。これがいわゆる「二重台帳方式」である。なぜわざわざ手間をかけるのかというと、効率性や透明性を高めること、そして「証券法には抵触したくないが、トークン化も取り入れたい」という両立を図るための”ウル技”とみられる。業界としては、このように段階的なブロックチェーン活用を模索するしかないのだろう。

実際、「Franklin Templeton(フランクリン・テンプルトン)」はすでにオンチェーンでMMFを運用しており、「BlackRock(ブラックロック)」もトークン化MMFを展開中だ。こうした流れを踏まえれば、フィデリティも「自社だけが遅れるわけにはいかない」と判断したのだろう。SECとの協議が円滑に進めば、2025年5月30日に運用開始さされる見込みだ。もっとも、規制当局とのやりとりでは何が起こるかわからない。とりわけ仮想通貨関連ではSECが厳しい姿勢を取ることが多いが、今回は「仮想通貨には投資しない」と明言しているため、交渉は比較的スムーズに進む可能性がある。

ただし、将来的に投資家同士がブロックチェーン上でMMFシェアをP2P取引できるようになれば、“擬似ステーブルコイン”のような存在感を帯びる。その場合、銀行預金や既存のステーブルコインなどとガチ競合することになり、規制当局がさらに注目するのは必至だ。したがって当面は、オフチェーンと並行した「管理されたオンチェーン」という形で実績を積み上げようとしているのではないかと推測される。

結局、「ブロックチェーン=仮想通貨界隈だけの話」ではなく、伝統金融がインフラとして取り込み始めているという点こそが重要である。これは金融のデジタル化が進むなかで起こっている大きな変革であり、フィデリティほどの大手が参入することはきわめて象徴的な出来事だ。今後こうしたトークン化ファンドがより広く展開される可能性は高いだろう。

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フリーエコノミスト。仮想通貨歴は9年。Liskで大損、BTCで爆益。タイの古都スコータイで、海外進出のための市場調査・戦略立案・翻訳の会社を経営。1973年生。東海中高、慶大商卒、NUCB-MBA修了。主著『マウンティングの経済学』。来タイ12年。
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