イーサリアムの基盤研究やエコシステム支援を行う「Ethereum Foundation(イーサリアム財団)」は3日、研究開発・助成金・寄付の資金調達を目的として、1万ETH(約64億円相当)を売却する計画を発表した。
助成金プログラム見直しと資金調達が背景
本件の売却は市場への影響を最小限に抑えるべく、数週間という期間をかけて複数回の小口注文に分けて実行される。財団側は、計画を事前に公表することで組織運営の透明性をアピールしている。手の内をあっさり明かすあたりは、いかにもこの組織らしいといえるだろう。
今回の資金調達の背景には、単なる財源確保以上の、より構造的な問題が横たわっている。それは、財団の助成金プログラム「エコシステム・サポート・プログラム(ESP)」の抜本的な見直しである。実は財団は8月29日、このESPにおける新規の助成金申請の受付を一時停止するという、重大な決定を下している。
2018年に始まったESPは、イーサリアムのエコシステムに貢献する多様なプロジェクトを支援する重要な役割を担ってきた。その規模は年々拡大し、2024年単年でも105のプロジェクトに対して約300万ドルを提供した実績を持つ。だが、その「門戸の広さ」が、結果として自らの首を絞めることになった。殺到する大量の申請を処理する業務が、少数精鋭で運営されるチームのリソースを著しく圧迫していたのである。
そのため財団は、これまでの「受動的」な支援モデルから脱却し、より戦略的で「積極的」なアプローチへと舵を切る決断を下した。いわば、甘い蜜を求めて群がるアリの行列を整理し、財団が真に重要と判断する領域へ集中的に投資する方針への転換である。
ESPの新規受付停止は、あくまで「一時的」な措置とされている。既存の助成金受給者へのサポートは継続される。そして、刷新された新しいESPの優先事項やアプローチの詳細は、2025年第4四半期に発表される予定だ。財団はX(旧Twitter)やFarcaster(ファーキャスター)といったSNSを通じて、最新情報を提供していくとしている。
仮想通貨の世界において、財団による過去のイーサリアム売却は、しばしば市場価格の天井を示すサインとして囁かれてきた。だが、今回はエコシステムの持続的な成長に向けた、より戦略的な組織改革の一環と捉えるべきだろう。イーサリアムという巨大プロジェクトの「司令塔」が断行する改革の行方は、今後の業界全体の動向にも少なからず影響を与えそうだ。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=148.00円、1 ETH=645,635円)