ステーブルコイン「USDe」を発行する「Ethena Labs(エセナ・ラボ)」は9日、大手暗号資産(仮想通貨)取引所「Binance(バイナンス)」との提携を発表し、USDeがバイナンスのサービス全体に組み込まれることを明らかにした。
世界最大規模の取引所でUSDeが基軸通貨の一つに
USDeは、バイナンスの先物やパーペチュアル取引における担保資産として利用可能となる。ポートフォリオマージンの枠組みでも活用でき、ユーザーはUSDeを担保に取引を行いつつ、週次の報酬を受け取れる仕組みが導入される予定だ。報酬付与は9月末から開始される。
さらに、資産運用サービス「バイナンス・アーン」にも統合される。これにより、USDeを保有することでドル建ての報酬を獲得できる。エセナ・ラボによれば、USDeは統合初日からバイナンス・アーンにおいて最も高い利回りを持つデジタルドルとなる見込みである。
バイナンスは世界最大級の取引所であり、現在およそ400億ドル(約5.8兆円)相当のステーブルコインが担保として利用されている。しかし、こうした資産はユーザーに対してリターンを生まない状態にある。USDeはこの点を改善し、単なる担保資産としてだけでなく、保有するだけで報酬が得られる仕組みを提供する点に特徴がある。
さらに現物取引にも対応し、まずUSDe/USDTペアが上場する。将来的にはさらなる取引ペアが追加される計画であり、流動性と利用の幅を拡大する施策が段階的に進められる見込みだ。
市場環境と意義
中央集権型取引所において、ドル資産の主要な用途は流動性確保と担保利用である。市場ではUSDT(テザー)が依然として支配的であり、全取引所におけるパーペチュアル取引ペアの大半がUSDT建てで取引されている。その規模は8,000億ドル(117兆円)を超えており、新しいステーブルコインがシェアを拡大するのは容易ではない。
しかし、USDeはすでに仮想通貨取引所「Bybit(バイビット)」において一定の成果を上げている。導入から数週間でUSDCの残高を上回り、総USD残高の12%を占めるまでに成長した。この実績を踏まえると、バイナンスでの展開も短期間で利用者に受け入れられる可能性が高いと考えられる。
バイナンスは約1,900億ドル(27兆円)の資産を有し、流動性やユーザー数の点で圧倒的な影響力を持つ。そこにUSDeが統合されることは、既存のドル資産の勢力図に変化をもたらす契機となるだろう。
今回の統合は、取引所における資本効率を高める新たな選択肢を提供するものであり、ステーブルコイン市場の競争環境に影響を与える可能性がある。特に、世界最大規模の取引所であるバイナンスにおける導入は、USDeの普及を加速させる重要な契機となるだろう。市場参加者は、ドル資産のエコシステムに変化が生じる過程を慎重に見極める必要がある。
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※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=147.0円)