アーサー・ヘイズ氏は、暗号資産(仮想通貨)業界で注目を集めるインフルエンサーです。ビットコインなどの価格について、大胆で物議を醸す予測をすることでも知られています。
価格予測は外れることも少なくありませんが、今も投資家やメディアに注目され続けているのは、なぜでしょうか。
この記事では、アーサー・ヘイズ氏がどんな人物なのかを紹介し、過去のビットコインなどの価格予測の精度について検証します。
アーサー・ヘイズとはどんな人物か
アーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)は、1985年にアメリカのミシガン州デトロイトに生まれました。2008年にペンシルバニア大学ウォートン・スクールを卒業し、経済学と金融の学士号を取得しています。
同年、香港でドイツ銀行の株式デリバティブトレーダーとして投資銀行のキャリアをスタートさせ、2011年からはシティグループでETFマーケットメーカーの責任者を務めました。
BitMEXの共同創業者
2014年にベンジャミン・デロ氏、サミュエル・リード氏らと共に仮想通貨取引所「BitMEX(ビットメックス)」を共同創業しました。
最大100倍のレバレッジ取引を可能にするなど、当時としては画期的な仮想通貨デリバティブ契約プラットフォームとして、業界内外から大きな注目を集めました。
仮想通貨の億万長者として一躍「時の人」となったヘイズ氏ですが、2020年10月、BitMEXがマネーロンダリング対策(AML)を適切に実施していなかったとして米当局に起訴され、CEOを辞任しました。
2022年5月には、1,000万ドルの罰金と6か月の自宅軟禁を含む2年間の執行猶予を言い渡されましたが、2025年3月にトランプ大統領から恩赦を受けました。
現在はBitMEXの運営からは身を引き、自身が共同創業したVCファンド「Maelstrom Fund(メイルストロム・ファンド)」のCIO(最高投資責任者)を務めるほか、仮想通貨関連のコラムニストとして活躍しています。今もメディアで話題に上ることが多い業界の注目人物です。
アーサーヘイズ氏の発信内容とスタイル
仮想通貨業界でたびたび物議を醸すアーサー・ヘイズ氏の発信について、以下の点について紹介します。
- 主な発信プラットフォームとフォロワー数
- 発信スタイルと特徴
- 議論を巻き起こす自由奔放な発言
- 大胆な価格予測
- 業界への影響力
主な発信プラットフォームとフォロワー数
アーサー・ヘイズ氏の発信は、主にブログとX(旧Twitter)です。
ブログ「Crypto Trader Digest」
アーサーヘイズ氏のメイン発信元であるブログ「Crypto Trader Digest」は、2014年にBitMEX公式サイト内で始まりました。
当初はサービスの更新情報やお知らせが中心でしたが、2016年頃から徐々に変化し、より分析的で個人の洞察を含むコラム形式へと発展していきます。
こうして次第に投資家や業界関係者向けの本格的なコラムとして認知されるようになり、現在のスタイルが確立されました。
現在の配信状況
「Crypto Trader Digest」は、現在いくつかのプラットフォームで読めます。
- BitMEX公式ブログ:2014年からの全記事が残っている
- Medium:2021年2月から公式ブログの記事を転載、フォロワー約15万人
- Substack(ニュースレター):2022年〜、公式ブログ公開とほぼ同時に購読者のメールへ配信
SNS・その他メディア出演
アーサー・ヘイズ氏はSNSでは主にX(旧Twitter) を使っており、現在は約72万人のフォロワーがいます。
その他のメディアにも多く出演しています。ポッドキャストやYouTubeでのインタビューの多くがWeb記事にもなり、氏の発言は常に仮想通貨業界からの注目を集めています。
発信スタイルと特徴
アーサー・ヘイズ氏の発信の魅力は、独自の着眼点と巧みな言葉選びにあります。
ブログは歴史的背景や社会情勢を踏まえた深い洞察が特徴です。テクニカル分析にとどまらず、マクロ経済や地政学的要因まで含めた多角的なアプローチは読者に強い印象を与えています。
また、人気の理由の一つが難解な金融や経済のテーマを親しみやすく伝える、巧みな表現方法です。時には辛辣な物言いもありますが、ユーモアや比喩を交えて、難解な金融や経済のテーマを読者に親しみやすく伝えています。
例えば、「Trumplation(トランプレーション)」や「Ski Cut(雪崩を誘発させる行動の喩え)」といった独自の用語や比喩によって、読者の記憶に残るような工夫が凝らされています。
議論を巻き起こす自由奔放な発言
ヘイズ氏の自由奔放な発言は、業界内で賛否両論を呼ぶことが少なくありません。
記憶に新しいのは、2025年2月のBybit(バイビット)大規模ハッキング事件の際です。14億ドル規模の被害を受けて、ヘイズ氏はイーサリアムネットワークのロールバック(取引履歴の巻き戻し)を提案しました。
しかし、この提案はイーサリアムコミュニティをはじめとする業界全体から強い反発を受けています。
大胆な価格予測
ビットコインやイーサリアムの価格についても、アーサー・ヘイズ氏は常に大胆な予測をしています。
2025年5月、「2028年にはビットコインが100万ドルへ到達する」と予測し、メディアでも大きな話題となりました。
そして2025年7月には、「2025年末までにビットコインが25万ドル、イーサリアムが1万ドルに達する」という新たな予測を発表し、こちらも多くのメディアで取り上げられています。
業界への影響力
銀行秘密法違反での有罪判決を受けたにもかかわらず、ヘイズ氏の業界における影響は衰えていません。むしろ、その波乱に満ちた経歴が彼の言葉に独特の説得力を付与している面すらあります。
ヘイズ氏は単なる「市場予想屋」にとどまらず、仮想通貨の未来を深く洞察し哲学を語る「思想家」として、多くの投資家から注目を集め続けています。
アーサー・ヘイズ氏のビットコイン・イーサリアム予想と的中率
アーサー・ヘイズ氏は、これまでにも強気な長期予測を繰り返しています。ここでは氏の過去のビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)の予測と結果を検証します。
これまでの主な予測(BTC・ETH)
2020年〜2025年の主な価格予測と結果の一覧表
予測日 | 銘柄 | 予測価格 | 予測対象時期 | 実際の価格 | 結果 | 参考URL |
---|---|---|---|---|---|---|
2020/04/09 | ビットコイン(BTC) | 20,000ドル | 2020年末 | 約29,000ドル | 的中(上振れ) | https://blog.bitmex.com/choose-your-fiction/ |
2020/04/09 | ビットコイン(BTC) | 3,000ドルを再テスト(割り込む) | 2020年内(可能性) | 年内最安:約6,500ドル | 外れ | https://blog.bitmex.com/choose-your-fiction/ |
2021/12/10 | ビットコイン(BTC) | 69,000ドルを超えない | 2021年末~2022年Q1 | 最高値:約52,000ドル | 的中 | https://blog.bitmex.com/circo-loco/ |
2022/03/31 | イーサリアム(ETH) | 10,000ドル | 2022年末 | 約1,200ドル | 大外れ | https://blog.bitmex.com/five-ducking-digits/ |
2022/04/10 | ビットコイン(BTC) | 30,000ドル付近まで下落 | 2022年6月 | 最安値:約17,700ドル | 方向は的中、価格は大きく乖離 | https://blog.bitmex.com/the-q-trap/ |
2022/04/10 | イーサリアム(ETH) | 2,500ドル付近まで下落 | 2022年6月 | 最安値:約890ドル | 方向は的中、価格は大きく乖離 | https://blog.bitmex.com/the-q-trap/ |
2022/06/01 | ビットコイン(BTC) | 25,000〜27,000ドルがこのサイクルのボトム | 2022年 | 約15,700ドル | 外れ | https://blog.bitmex.com/shut-it-down/ |
2023/06/01 | ビットコイン(BTC) | 20,000ドルを再び試すことはない | 2023年内 (明示なし) | 最安値:約24,700ドル | 的中(少なくとも2023年内) | https://blog.bitmex.com/patience-is-beautiful/ |
2024/01/23 | ビットコイン(BTC) | 30,000〜35,000ドル(ボトム価格) | 2024年3月前後 | 最安値:約50,000ドル | 外れ | https://blog.bitmex.com/yellen-or-talkin/ |
2024/05/03 | ビットコイン(BTC) | 60,000〜70,000ドルのレンジ | 2024年5〜7月 | 約54,000〜71,000ドル | 外れ(レンジ外) | https://blog.bitmex.com/mayday/ |
2024/08/12 | ビットコイン(BTC) | 100,000ドル | 2024年内 | 最高値:約10,8000ドル | ほぼ的中 | https://blog.bitmex.com/water-water-everywhere/ |
2025/02/06 | ビットコイン(BTC) | 70,000〜75,000ドルの再テスト | 近い将来 | 最安値:約75,000ドル(~4月上旬) | 的中 | https://blog.bitmex.com/the-genie/ |
2025/03/04 | ビットコイン(BTC) | 80,000ドル割れ、場合により70,000ドル | 近い将来 | 最安値:約75,000ドル(〜4月上旬) | 的中 | https://blog.bitmex.com/kiss-of-death/ |
分析結果
総予測件数:13件
- 的中件数:6件(約46%)
- 方向感は合っていたが大幅に上振れ/下振れした件数:2件(約15%)
- 外れ(方向も価格も異なる)件数:5件(約39%)
過去の的中率
アーサー・ヘイズ氏の大胆な予測は話題を呼ぶものの、的中率は決して高くはありません。本人も、自分のビットコイン予想やイーサリアム予想が当たらないことを認めています。
それでも彼への業界の注目度が変わらないのは、具体的な価格予測よりも、その背景にある独自の視点や分析手法に価値を見出す市場参加者が多いからでしょう。実際、個別の価格予測が外れても、マクロ経済の動向や市場の大きな潮流については的中することもあります。
多くの投資家は、彼の深い洞察を自身の分析における重要な判断材料として活用しています。つまりヘイズ氏の真の価値は「当たるか当たらないか」ではなく、独自の思考と分析が多くの投資家に刺激を与え、議論を深めるきっかけとなっている点にあると言えるでしょう。
アーサーヘイズ氏の投資哲学と分析アプローチ
アーサー・ヘイズ氏の仮想通貨予測は、業界で高い注目を集めています。以下のような投資哲学と分析アプローチが特徴です。
- マクロ経済と流動性を重要視
- 政治・地政学的リスク要因を注視
- 逆張り思考
- 予測が外れたときに認める率直な姿勢
マクロ経済と流動性を重要視
ヘイズ氏の仮想通貨市場分析は、マクロ経済と世界の流動性を重要視するのが特徴です。特に、世界の法定通貨の供給量を主要な変動要因のひとつと捉えています。
法定通貨の供給量が増えると、その通貨の価値が薄まり、結果として仮想通貨が代替資産として魅力を増すというシナリオです。
ヘイズ氏が注目する流動性の主要指標は、FRB(連邦準備制度理事会)のバランスシートの変動と、米財務省の動向です。なかでも、政府の財政政策や債務発行が資金循環に大きな影響を与えると主張しています。
2020年4月、コロナ禍における大規模金融緩和の影響でビットコイン価格が上昇するとして、ヘイズ氏は同年末までに2万ドルに到達すると予測しました。その後の仮想通貨価格の上昇時期をある程度正確に予測したことは、彼の分析手法の有効性を示しています。
政治・地政学的リスク要因を注視
ヘイズ氏は、政治・地政学的な要因を仮想通貨市場の重要な変動要因と捉えています。
政府の財政支出拡大や金融緩和は、銀行システムの信用不安を引き起こし、インフレを加速させる要因となります。特に米国の「戦時産業的な政策」は供給不足と需要過多を引き起こすと分析しています。
結果的に、世界のマネーが伝統的な金融システムからビットコインをはじめとする非中央集権的な仮想通貨へと移行するという見方です。
このような状況下では、法定通貨の価値が相対的に低下し、仮想通貨の価値が相対的に向上するというシナリオを描き、トランプ政権の政策が大規模な資金流入を促進する現象を「トランプ・パンプ(Trump pump)」と名付けました。
逆張り思考
アーサー・ヘイズ氏の分析の特徴の一つとしてあげられるのが、人気やモメンタムではない指標を手掛かりに価格の起点を狙う「逆張り思考」です。
たとえば彼は2025年7月、イーサリアムが主導する強気相場が来ると予測しています。FTX崩壊後にソラナが大幅に高騰した一方で、イーサリアムを「最も嫌われた大型銘柄」と表現しました。しかし、今やイーサリアムは米機関投資家からの注目が高まっており「西側の機関投資家層はイーサリアムを愛している」と述べています。
また、2022年5月のTerra(LUNA)崩壊や、7月の3AC・Celsius破綻で市場が大きく落ち込んだ際にも、ヘイズ氏は悲観的なムードとは対照的に「流動性の回復兆候」に着目し、典型的な逆張りの姿勢を示しました。
予測が外れたときに認める率直な姿勢
アーサー・ヘイズ氏の発言が業界で注目され続ける理由の一つが、間違いを認める率直な姿勢です。
彼は「自分の仕事は予測を出すこと。当たるかどうかは気にしない」と公言しており、予測が誤っていれば「間違っていた」と率直に認めることも多いです。
この姿勢は多くの投資家から好感を持って受け入れられています。「個々の予測が当たらなくても、市場の大きな方向性を示す“物語”が重要だ」という発言もしています。
そのため、ヘイズ氏の発言は単なる数字の予想ではなく、市場の潮流や潜在的なリスクを見極めるための「指標」として多くの投資家に参考にされているのでしょう。
アーサー・ヘイズ氏の現在の活動と今後の展望
最後に、アーサー・ヘイズ氏の現在の活動と今後の予定を紹介します。
現在の活動
BitMEXの共同創業者としての役割を終えた現在も、ヘイズ氏は仮想通貨業界の最前線で精力的に活動しています。
投資活動としては、自身のファミリーオフィスが運営する「Maelstrom Fund」で、ブロックチェーン関連企業やその発行トークンへの長期的な投資を行っています。
以前から力を入れている情報発信も健在です。自身のブログやX(旧Twitter)での発信に加え、ポッドキャストやインタビューにも頻繁に登場し、独自の視点から市場分析や未来予測を披露しています。
また、イベント登壇なども積極的で、2025年8月にCoinPostが主催する、アジア最大級のWeb3カンファレンス「WebX 2025」での講演も予定されています。
現在の運用スタンス
ヘイズ氏の現在の運用スタンスは、彼の哲学を反映した大胆なものです。2025年7月時点で、現金ポジションをほぼゼロにし、積極的にリスク資産に投資すると公言しており、それを「DEGEN(ハイリスク投機家)モード」と表現しています。
現在のポートフォリオは、主にイーサリアム(ETH)と「シットコイン(shitcoin)」が中心です。
「シットコイン」は仮想通貨業界で使われる俗語で、ミームコインや草コインに似た概念です。ヘイズ氏はこれを魅力的な投資対象とみなし、高いリスクを承知の上で積極的に投資しています。
ether.fi への関心
アーサー・ヘイズ氏は、現在のDeFiトレンドの中でも特に「リステーキング」に強い関心を持っています。2025年8月10日時点のオンチェーンデータでは、自身の保有するETHの約4分の3に当たる約3,000ETHを、リキッドリステーキングプロトコル「ether.fi」にステーキングしています。
リステーキングは、ETHを一度ステーキングしたものをさらに別のプロトコルに預け入れることで、利回りを増幅させる新しい仕組みです。
以下にether.fiの特徴をまとめます。
プロジェクト名 | ether.fi(イーサ・ファイ) |
カテゴリ | 分散型リキッドステーキングプロトコル、リステーキング |
メインネット開始 | 2023年5月 |
基盤ブロックチェーン | Ethereum(イーサリアム) |
主な機能 | ・非カストディアルステーキング:秘密鍵を自分で管理 ・リキッドステーキング:ステーキングしたETHに対してeETH(ether.fi Staked ETH)というリキッドトークンを発行し、DeFiプロトコルで利用可能 ・ネイティブリステーキング:EigenLayerを通じて自動的にリステーキングされ、追加の報酬(EigenLayerポイントなど)を獲得 |
発行トークン | ・ETHFI:ガバナンストークン(プロトコルの意思決定に参加できる) ・eETH:ステーキングされたETHを表すリキッドステーキングトークン |
総供給量(ETHFI) | 1,000,000,000 ETHFI(10億枚) |
TVL | 115億ドル(リキッドリステーキングプロトコルとしては最大級) |
Webサイト | https://www.ether.fi/ |
現在の影響力
アーサー・ヘイズ氏の仮想通貨業界における影響力は依然として衰えていません。継続的な情報発信やメディア露出により、彼の見解は広く共有されており、多くの投資家が今も彼の発言をチェックし、重要な情報源としています。
CoinPost、CoinDesk、Cointelegraphといった主要メディアは彼の市場予測や分析を頻繁に報じ、ニュースバリューがあると見なしている証左といえるでしょう。
彼の発言は市場の注目を集め、価格動向に影響を及ぼすこともあります。このような発言の積み重ねが、仮想通貨業界での彼の影響力を際立たせています。
まとめ
BitMEXのCEOを退いたものの、アーサー・ヘイズ氏の影響力は現在も健在です。起訴され有罪判決を受けたことが、かえって彼への注目度を高め、影響力を増したという見方もあります。
的中率は低いにもかかわらず、彼の市場予測や分析が多くの投資家に注目されるのは、深い洞察と分析が単なる価格予想を超えて、市場の大きな潮流や潜在的な可能性を示す「物語」として捉えられているからでしょう。
彼は単なる「予想屋」や「インフルエンサー」に留まらず、「クリプト思想家」としての強い存在感を放っています。