カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は8日、国民への年次教書演説において、国家規模での暗号資産(仮想通貨)準備金の創設と、2026年までの包括的なデジタル資産法の制定という、壮大な構想を明らかにした。
マイニング天国からブロックチェーン国家へ
トカエフ大統領は2019年の就任。外交官出身の彼は、旧ソ連からの独立後、国の近代化と国際社会におけるプレゼンス向上を精力的に推し進めてきた。
カザフスタン共和国大統領府が公式サイトで発表した演説によれば、トカエフ大統領は「人工知能時代におけるカザフスタン」と題したメッセージの中で、国家のデジタルトランスフォーメーションを最重要課題の一つに挙げた。その核心に据えられたのが、仮想通貨とブロックチェーン技術の国家戦略への本格的な組み込みである。具体的には、来る2026年までにデジタル資産に関する包括的な法律を整備し、さらには国家として仮想通貨の準備金を創設するという。これは、単に仮想通貨を容認するに留まらず、国家の富として戦略的に活用しようとする明確な意思表示に他ならない。
この動きの背景には、カザフスタンが「マイニング大国」として過ごした数年間の経験がある。中国政府が国内のマイニング事業を全面的に禁止した際、安価な電力を求めて多くの事業者が雪崩れ込んだのが、ここカザフスタンであった。しかし、その結果として深刻な電力不足が発生し、政府は規制強化へと舵を切らざるを得なくなった。今回の発表は、こうした無秩序なマイニングブームへの反省から、より持続可能で管理された形でデジタル経済に関与していくという国家の成熟した姿勢を示すものといえるだろう。
そして、この壮大な構想は決して机上の空論ではない。その証左に、この大統領演説に先立つ形で、具体的な布石が打たれていたのである。カザフスタンのデジタル開発省(MDAI)と「Solana Foundation(ソラナ財団)」は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「Digital Tenge(デジタル・テンゲ)」の試験運用や、トークン化された資本市場の創設に関する覚書(MOU)を締結している。つまり、今回の提案は、すでに水面下で進められてきたプロジェクトのいわば「公式発表」であり、ブロックチェーン技術の社会実装に向けたロードマップが着実に進行していることを物語っている。
むろん、国家が仮想通貨の準備金を保有するというアイデアは、エルサルバドルの挑戦を想起させる。しかし、法定通貨としてビットコインを導入した同国のアプローチとは異なり、カザフスタンのそれは、より慎重かつ国家管理の色合いが濃いものだ。2026年までに制定される新法は、投資家保護やアンチ・マネーロンダリングといった規制を明確化すると同時に、この新しい資産クラスから国家がいかにして利益を得るかという視点が盛り込まれることは確実と思われる。
資源依存型経済からの脱却は、カザフスタンにとって長年の国家的な課題であった。今回のデジタル資産戦略は、そのための極めて重要な一手となる可能性を秘めている。中央アジアの広大な大地で始まったこの壮大な試みが、世界の仮想通貨地図、ひいてはデジタル経済の未来を塗り替えるかもしれない。
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