近年、企業の資産運用戦略として、暗号資産(仮想通貨)、特にビットコイン(BTC)を購入・保有する動きが世界的に加速しています。
米国の「Strategy(ストラテジー※旧マイクロストラテジー)」を筆頭に、多くの海外企業がインフレヘッジや価値保存の手段としてビットコインを大量に保有しており、その動向は仮想通貨業界だけではなく、株式市場からも注目を集めるようになりました。
そして2024年以降、この流れは日本国内にも広がっています。特にメタプラネット社によるビットコインへの投資戦略が話題になり、株価にも大いに影響を与えています。
そこでこの記事では、最新のデータをもとに、ビットコインを保有する日本の主要な上場企業をランキング形式で紹介します。各企業がどのような戦略でビットコインを取得したのか、そしてそれが株価にどのような影響を与えたのかを解説していきます。
ビットコインを保有する日本の上場企業一覧
企業名 | 証券コード | 株価 | 時価総額 (単位:百万円) | ビットコイン保有量 | 保有ビットコインの日本円換算額(概算) |
株式会社メタプラネット | 3350 | 1,341円 | 669,259 | 8,888 | 1,351億円 |
株式会社ネクソン | 3659 | 2,602円 | 2,141,834 | 1,717 | 261億円 |
株式会社リミックスポイント | 3825 | 497円 | 62,304 | 758.4 | 115億円 |
ANAPホールディングス株式会社 | 3189 | 968円 | 18,554 | 102.9 | 15億円 |
SBCメディカルグループホールディングス | ※米ナスダック上場 | 4.72ドル | 489,045,000ドル ※70,800百万円 | 66 | 10億円 |
バリュークリエイション | 9238 | 1,299円 | 2,989 | 30.38 | 4.6億円 |
AIフュージョンキャピタル・グループ | 254A | 1,190 | 10,689 | 24.63 | 3.7億円 |
2025年6月現在、ビットコインを会社の資産として保有していることが確認できる日本の上場企業は、表の通りです。海外では米国を中心に数百社がビットコインを保有していますが、日本ではまだ限定的といえます。
しかし、保有量ランキング1位のメタプラネット社の株価が驚異的な値上がりをするなど、日本でも徐々にビットコイン保有戦略が知られるようになってきました。直近で仮想通貨投資事業への参入が株価に好影響を与えている事例が複数あるため、今後も日本企業によるビットコインへの投資は継続していくと見られます。
日本上場企業のビットコイン保有量ランキング
先に紹介した表の通り、2025年6月時点で、ビットコインの保有量を明らかにしている日本の上場企業は7社あります。
以下、それらの企業について詳しく解説します。
1位:メタプラネット
株式会社メタプラネットは、Web3関連事業やIRライセンス事業などを手掛ける企業です。
2024年に「アジア版マイクロストラテジー」になることを宣言し、財務戦略としてビットコインを継続的に購入することを発表して以降、市場から絶大な注目を集めています。
ビットコイン取得の経緯と履歴
メタプラネットのビットコイン取得は、2024年4月から始まっています。同社は、「長期的に円安が続くと予測される中で、日本円へのエクスポージャーを減らし、価値保存能力の高いビットコインを主要な財務資産とする」戦略を打ち出しました。
最初の取得以降も、新株予約権の発行などで調達した資金を継続的にビットコインの購入に充てており、その保有量は急速に増加。2025年6月時点で、同社の保有量は8,888BTCとなっています。
メタプラネットは2025年6月6日、「2027年までに21万BTCの保有を目指す」と発表。今後も積極的にビットコインへの投資を続けることを表明しています。
株価への影響

メタプラネットは、ビットコインへの投資を発表して以来、驚異的な株価高騰を記録しました。
2024年には、時価総額が500億円以上の東証スタンダード企業の中で、株価の上昇率が1位に。24年1月1日時点の株価は16円だったものの、同年末には347円まで価格を上げています。
25年に入ってからも勢いは衰えず、6月7日時点で同社の株価は1,341円をつけています。24年1月から、わずか1年半の間に約8,300%の高騰を記録したことになります。
一方で、ビットコイン価格が暴落した直後に、同社の株価がストップ安になったこともあります。
これは、同社の株を保有することが、間接的にビットコインに投資することと同じ効果を持つと市場に認識されたためです。そのため、ビットコイン価格が下落する局面では、株価も同様に大きく下落するリスクを抱えており、非常にボラティリティの高い銘柄となっています。
2位:ネクソン
株式会社ネクソンは、PCオンラインゲームやモバイルゲームの開発・運営をグローバルに展開する大手ゲーム会社です。「メイプルストーリー」や「アラド戦記」などの人気タイトルで知られています。
ビットコイン取得の経緯と履歴
ネクソンがビットコインを取得したのは2021年4月のことです。同社は、1億ドル(当時のレートで約111億円)を投じて1,717BTCを取得したことを発表しました。平均取得単価は約58,226ドル(当時のレートで約644万円)です。
同社はビットコイン購入の目的について、「株主価値を維持し、長期的な安定と成長を維持するため」とし、ビットコインについては「長期的に安定した流動性のある資産である」と説明しています。これは、将来的なインフレリスクに対するヘッジとして、また、余剰資金の有効な投資先としてビットコインを選択したことを示しています。
ただし、ネクソンはメタプラネットのようなビットコイントレジャリー企業(ビットコインへの投資や保有を事業の核に据える企業)になろうとしているわけではありません。そのため、メタプラネットのような積極的な追加購入は行っておらず、初期の投資分を現在も保有し続けている形です。
株価への影響

ネクソンがビットコイン保有を発表した2021年当時、市場には驚きをもって受け止められましたが、株価への直接的な影響は限定的でした。
これは、ネクソンの事業規模や時価総額が非常に大きいため、保有するビットコインの価値が会社全体の資産に占める割合が比較的小さいことが理由です。また、当時は企業によるビットコイン投資がそれほど注目されておらず、株価に大きな影響を与えた例もほとんどなかったことも理由の一つでしょう。
そのため、ネクソンの株価は現在もゲーム事業の業績や新作タイトルの期待感などによって変動し、ビットコイン価格との直接的な連動性は低いと言えます。
3位:リミックスポイント
リミックスポイントは、電力小売事業や省エネ関連のコンサルティングなどを手掛ける企業です。過去には仮想通貨交換所「ビットポイント」を運営していました。(現在はSBIホールディングスに売却済み)
ビットコイン取得の経緯と履歴

リミックスポイントは、2024年9月に「キャッシュマネジメント戦略の一環」としてビットコインを含む複数の仮想通貨、約15億円分を取得しました。
その後も継続的に保有量を増やしており、2025年6月7日時点での保有量は約758BTC。表の通り、イーサリアムやソラナなど、ビットコイン以外にも複数の仮想通貨を保有しています。また、「累計1,000BTC以上の取得を目指す」ことを明かしているため、今後もビットコイン及び仮想通貨への戦略的投資を継続する見込みです。
株価への影響

リミックスポイントの株価は、仮想通貨の保有を宣言した2024年9月以降、大きく動いています。これは、メタプラネットのような値動きを、市場から期待されているからです。
先に紹介した保有量ランキング2位のネクソンはビットコインの購入を継続的に行っているわけではないため、実質的に「二匹目のドジョウ」として期待されているということです。
ただし、メタプラネットと同様にビットコイン価格の変動に合わせて株価も大きく揺れ動くようになっており、ボラティリティの高い銘柄となっています。
4位:ANAPホールディングス株式会社
ファッションブランド「ANAP」の企画・販売を手掛けるANAPホールディングス株式会社は、2025年に入り仮想通貨投資を新たな事業の軸として位置づけています。
ビットコイン取得の経緯と履歴
同社は2025年2月に連結子会社「ANAPライトニングキャピタル」を設立し、複数回にわたってビットコインを購入。直近では2025年5月28日に約2.4億円で15.2081BTCを追加取得しており、2025年6月7日時点での総保有量は102.9BTC(総額約15億円相当)に達しています。
株価への影響

同社はまだビットコインの購入を始めたばかりですが、株価は機敏に反応しています。特にビットコインの購入を立て続けに発表した2025年5月末以降、株価も大きく上昇しました。
同社のチャートを見ると、2025年現在、企業による「ビットコイン保有戦略」は市場から好意的な評価を受けていると言えるでしょう。
5位:SBCメディカルグループホールディングス
美容医療クリニック「湘南美容クリニック」を運営するSBCメディカルグループホールディングスは、米ナスダックに上場しています。そのため厳密には日本企業ではありませんが、事業の拠点は日本なのでランキングで取り扱います。
ビットコイン取得の経緯と履歴
SBCメディカルグループホールディングスは2025年2月に10億円規模のビットコイン購入計画を発表し、戦略取得を進めています。
直近では2025年4月に、計画の一部として5BTC(約6,000万円相当)の購入を発表。6月7日時点での総保有量は66BTCに達しています。
株価への影響

SBCメディカルグループホールディングスの株価に対してビットコインの保有量は非常に小さいため、株価への直接的な影響は、現時点ではほぼ見られません。メタプラネットらと違い、同社はビットコインの購入・保有が事業の核ではない、というのもその理由です。
ただし、今後さらに追加購入してビットコイン保有量が増大した場合には影響が現れる可能性もあります。
6位:バリュークリエイション
バリュークリエイションはマーケティングやDX事業を手掛ける企業で、財務戦略としてビットコイン保有を進めています。
ビットコイン取得の経緯と履歴
同社は2025年3月、「余剰資金の有効な運用手段」としてビットコイン購入を開始しました。「デジタルゴールドとしての価値や機関投資家の支持の高まり」を、購入理由として挙げています。
その後、複数回にわたる追加購入を経て、2025年6月7日時点で保有量は30.38BTCとなっています。
株価への影響

バリュークリエイションの株価は、ビットコイン購入を発表した2025年3月以降、激しい乱高下を繰り返しています。
2025年現在、企業によるビットコイン購入は市場から多くの注目を集めるようになっており、結果的にボラティリティが高くなるという側面があるということがわかります。
7位:AIフュージョンキャピタル・グループ
AIフュージョンキャピタル・グループは、AI事業やM&Aを手掛ける企業で、2025年1月に仮想通貨投資事業を開始することを発表しました。
ビットコイン取得の経緯と履歴
AIフュージョンキャピタル・グループは、3月に5億円相当のビットコイン購入に関する決議を発表。以降、ビットコインの追加購入を続け、2025年6月7日時点では24.63BTCを保有していることが確認されています。
株価への影響

AIフュージョンキャピタル・グループは2025年1月30日に、「子会社の設立及び新たな事業(暗号資産投資事業)の開始」を発表。発表から数時間でストップ高を記録しました。その後、2月以降も値幅の大きい動きが続いています。
3月以降、ビットコイン購入の発表を続けており、その報道やビットコイン価格に影響を受けて価格も大きく上下動しています。ただし、最も株価へのインパクトが大きかったのは、仮想通貨投資事業への参入を発表した直後です。
同社の値動きからは、「仮想通貨投資事業への参入」が、株価に直結する重大なニュースであると認識されていることがわかります。
日本企業によるビットコイン保有に関するよくある質問
主な目的は、インフレヘッジと価値保存です。法定通貨(特に日本円)の価値がインフレや円安によって長期的に目減りするリスクに備え、発行上限が定められているビットコインを代替的な準備資産として保有する戦略です。また、その他にも以下のような目的があります。
- 企業の余剰資金を有効活用する
- 将来的なキャピタルゲイン(値上がり益)を狙う
- 「企業によるビットコイン投資」に話題性があり、株の価格に好影響を与えると期待
- 先進的な取り組みをする企業であるというアピールになる
A.2025年現在、日本の企業は海外、特に米国企業と比較すると、ビットコイン保有にはまだ消極的です。
米国ではストラテジーが50万BTC以上を保有しているほか、テスラ社やマラソン・デジタル・ホールディングス社など多くの企業が大規模に保有しています。日本ではメタプラネット社が先駆的な動きを見せていますが、全体としてはまだ黎明期と言えるでしょう。
A.ポジティブとネガティブ、両方の影響があります。
【ポジティブな影響】
ビットコイン保有の発表は、市場に「先進的な企業」という印象を与え、期待感から株価が急騰することがあります。また、保有するビットコインの価格が上昇すれば、会社の資産価値が増加し、それが株価に反映されることもあります。
【ネガティブな影響】
ビットコインは価格変動が非常に激しいため、価格が暴落した際には会社の資産価値が大きく減少し、株価の急落を引き起こすリスクも抱えています。また、特に日本ではビットコインへの投資を表明した企業の株価は、ビットコイン価格の影響を強く受けるようになっており、結果的にボラティリティが高くなる傾向があります。
なお、国内でビットコイン保有が盛んになった2024年以降、ビットコインは価格高騰が続いている点には注意が必要です。価格の下落局面において、ビットコイン保有企業の株価がどのように評価されるのかは未知数だからです。
はい、法律上問題ありません。企業が資産としてビットコインを購入・保有すること自体を禁止する法律はありません。ただし、仮想通貨の取引などを通じて利益を得た場合は法人税等の対象となります。
海外では多くの企業がビットコインを保有しています。
企業 | ビットコイン保有量 |
Microstrategy, Inc. | 580,955 |
MARA Holdings, Inc. | 49,311 |
XXI | 37,230 |
Riot Platforms, Inc. | 19,225 |
Galaxy Digital Holdings Ltd | 12,830 |
2025年6月7日時点の、ビットコイン保有量トップ5は表の通りです。代表的な企業は米国のストラテジーで、その保有量は群を抜いています。なお、日本企業で最もビットコインを保有しているメタプラネットは、世界ランキングでは10位となっています。

図の通り、ETF(上場投資信託)やファンドによるビットコイン保有量は、上場企業(Public Companies)を上回っています。
ただし、ETF(上場投資信託)やファンドが保有するビットコインは、「大資本によるビットコインへの資金流入」という観点では、企業によるビットコイン購入と同様の意味を持っていまが、その性質には違いがあります。これらは投資家から集めた資金でビットコインを購入し、その所有権を証券という形で投資家に提供しているため、ビットコインそのものを特定の組織が完全に所有しているわけではありません。
ETF及びファンドの、ビットコイン保有量トップ5は以下の通りです。
ETF及びファンド | ビットコイン保有量 |
iShares Bitcoin Trust | 664,955 |
Fidelity Wise Origin Bitcoin Fund | 200,713 |
Grayscale Bitcoin Trust | 187,870 |
ARK 21Shares Bitcoin ETF | 49,343 |
Grayscale Bitcoin Mini Trust | 43,363 |