過疎化が進む鳥取県江府町で、医師や起業家がブロックチェーン技術を活用し、田んぼ再生による新たな農業モデルに挑戦しています。「田んぼDAO」と名づけられたこのプロジェクトは、農作業の分担や自然資本の再評価、NFTによる関与証明などを通じて、就農人口の増加や地域の活性化を目指す取り組みです。
江府町とは?

鳥取県江府町(こうふちょう)は、中国地方最高峰・大山(だいせん)の南側「奥大山」に位置し、町の人口は2,349人(2025年5月時点)と県内最小規模です。
豊かなブナ林が育む清らかな水資源が自慢で、名水の採水地としても知られています。美しい自然と調和した街並みの中で、「水のふるさとSDGs宣言」を掲げ、環境再生や健康増進に積極的に取り組んでいます。
今回のプロジェクトでは、この江府町の田んぼを舞台に、自然と人が共生する新しい地域運営のモデルづくりが始まりました。
天籟株式会社とは?

「田んぼDAO」プロジェクトを主導するのは、江府町に本社を置く「天籟(てんらい)株式会社」。医師の桐村里紗氏が代表を務め、プラネタリーヘルス(人・社会・地球の健康を一体と捉えるヘルスケア概念)の社会実装に取り組む企業です。
農業や環境、医療といった領域を横断的に結びつけながら、持続可能な地域社会の形成を目指しています。今回のプロジェクトでは、DAO(分散型自立組織)の運営設計や参加者とのつながりづくりを担い、地域と都市部を結ぶ橋渡し役としても期待されています。
また、共にプロジェクトを推進するのが、地元の農事組合法人宮市や、プラネタリーヘルスを普及する「一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブ」です。
「田んぼDAO」とは?

「田んぼDAO」は、2025年5月から始動した農業 × DAOの実証プロジェクトです。背景にあるのは、米価の低迷や農家の高齢化、耕作放棄地の増加といった課題です。
そこで、「価格競争」ではなく「価値の再発見」によって農業を再生しようとするのがこの取り組み。田んぼを自然資本(ナチュラルアセット)として捉え、都市住民がオンラインとオフラインの両方で関与することで、農業の新しいかたちを模索しています。
プロジェクト初期には、医師、起業家、看護師、土壌専門家など多様な背景をもつ20人が参加。田植えイベントや農作業支援を通じて、就農・関係人口の拡大にもつながり始めています。
どんな仕組み?

参加者は「メンバーシップNFT」を通じてDAOメンバーとして認証され、田植えなどの農作業に参加した証として「nichtone(ニッヒテーネ/NT)」というリワードトークンが発行されます。
NFTによって個々人の関与が記録され、DAOの仕組みによって意思決定や運営にも関わることができます。メンバーは、収穫前の米を事前購入することで農家の安定収入を支え、田んぼの運営・改善にも貢献します。
加えて、廃棄される籾殻や雑草などの未利用資源のアップサイクル、農薬・化学肥料削減による生物多様性保全など、多面的な価値創出を目指しています。
今後の展開と期待
「田んぼDAO」は、2025年10月の稲刈りや資源活用の検証を経て、年末までに持続可能なDAOモデルの確立を目指しています。その後は、より多くの地域や農地に展開する構想も視野に入れています。
DAOの仕組みによって自律的な運営が可能になれば、農家の負担を軽減しつつ、多様な関係者が関与する「みんなで育てる農業」が広がる可能性があります。
将来的には、NFTの貢献証明が個人や企業の「環境信用」となり、リワードトークンが循環する自然資本ベースの経済圏が実現するかもしれません。
おわりに
江府町で始まった「田んぼDAO」は、NFTやDAOといった技術を活用しながら、地域の課題に実地で向き合う新しい農業の取り組みです。自然資源とテクノロジー、地域と都市を結び直し、持続可能な関わり方を模索する仕組みとして、今後の広がりにも注目が集まります。